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院長ブログ
2026.08.20
院長ブログ
CPAPは心臓病を予防するのか?

みなさん、こんにちは。
大阪府北摂地域、箕面船場にある、まにわクリニック院長の馬庭です。
「いびきがうるさいと家族に言われる」
「朝起きても、疲れがとれていない」
「昼間、どうしても眠くなる」
こうしたお悩みをお持ちの方も多いのではないでしょうか?
その背景に隠れているのが、「睡眠時無呼吸症候群」です。
この病気が心臓や血管に負担をかけることは、以前からよく知られていました。なぜなら、睡眠中に無呼吸になることによって、体内の酸素濃度が低下し、自律神経の乱れから血圧を上昇させ、血圧上昇、不整脈の出現などのリスクを増大させるからです。
睡眠時無呼吸症候群の治療としてはCPAP(シーパップ)療法と呼ばれる治療が存在します。
これは空気の圧力を送り込んでくれる特殊なマスクを装着して睡眠することで、睡眠中の舌の落ち込みを防ぎ、無呼吸を起こりにくくするものです。
なので「CPAP(シーパップ)という治療をすれば、心筋梗塞や脳梗塞も防げるはずだ」と、多くの医師が考えていました。
ところが、大規模な臨床試験がその期待を裏切ります。
「CPAPでは心血管イベントは減らなかった」
循環器内科専門医の私にとっても、かなり衝撃的な結果でした。
では、なぜ効果が得られなかったのか。CPAPの治療は無意味なのか。今回はこのテーマを、専門医の立場からわかりやすく解説します。
目次
1. 睡眠時無呼吸症候群とは?
2. 衝撃の結果——CPAPで心血管イベントは減らなかった
3. 理由① CPAPを「つけている時間」が短かった
4. 理由② 「重症」の中身が人によって全く違った
5. CPAPだけではダメ
5. 私の考え
1. 睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に舌が落ち込んでのどの奥がふさがり、呼吸が何度も止まってしまう病気です。日本では潜在的に900万人以上いると推計されており、決してめずらしい病気ではありません。
呼吸が止まると、血液中の酸素が下がります。すると体は「これは危険だ」と判断し、交感神経を働かせて心臓を叩き起こします。本来睡眠中は副交感神経が優位になっており、血圧は低く、脈拍はゆっくりになっていますが、無呼吸によって交感神経が過剰に興奮することによって、血圧が跳ね上がり、脈が速くなり、脳が一瞬覚醒する。この一連の反応が、一晩に何十回、多い方では何百回も繰り返されるのです。
毎晩これが続けば、血管は夜間も高い血圧にさらされることになり、血管が痛んでいきます。実際、睡眠時無呼吸のある方では高血圧、心筋梗塞、脳梗塞、心不全、不整脈のリスクが高まることが数多くの研究で示されています。
逆に言うと、なかなか血圧が下がらない方、不整脈を保たれている方、目立ったリスクがないのに脳梗塞になられた方の中には、睡眠時無呼吸が隠れている場合があります。
なので私の外来では、このようなリスクのある方には
「普段いびきがひどいと言われませんか」「日中の過度な眠気はありませんか」
と確認を行い、疑わしければ睡眠時無呼吸の検査を行っています。
2. 衝撃の結果——CPAPで心血管イベントは減らなかった
睡眠時無呼吸の標準的な治療がCPAPです。鼻に装着したマスクから空気を送り込み、その圧力でふさがった気道を押し広げる治療で、無呼吸そのものは劇的に改善します。
では、CPAPを続ければ心筋梗塞や脳梗塞は防げるのか。これを検証したのが今回解説するSAVE試験です。

中等症~重症の睡眠時無呼吸があり、すでに心筋梗塞や脳梗塞を経験した2,717名を、「通常治療+CPAP」と「通常治療のみ」の2グループにくじ引きで分け、平均3.7年間追跡した国際共同研究です。
結果、心血管イベント(心臓死・心筋梗塞・脳卒中など)の発生率は、CPAP群17.0%、通常治療群15.4%。両群にまったく差はありませんでした。
一方で、日中の眠気、生活の質、気分、いびきは、CPAP群で明らかに改善していました。同じような結果は、その後のRICCADSA試験、ISAACC試験でも繰り返し確認されています。
「CPAPは症状には効くが、心臓は守らないのか」
この結果は大きな議論を呼びました。
ここからは、なぜ効果があると思われていた治療の有効性が証明できなかったのかを考察していきます。
3. 理由① CPAPを「つけている時間」が短かった

まず最も強く指摘されたのが、CPAPを実際につけていた時間の短さです。
この試験での平均使用時間は、一晩あたり約3.3時間。効果が期待できる目安とされる「4時間以上」を、平均で下回っていました。
これは単なる数字の問題ではありません。睡眠の後半に増える「レム睡眠」では、のどの筋肉が最もゆるみ、無呼吸が長く・深くなります。つまりいちばん体に負担がかかるのは、明け方に近い時間帯なのです。3時間で外してしまえば、その最も危険な時間をまるごと放置することになります。
実際、4時間以上使っていた方だけを取り出した解析では、脳血管の病気が減る方向の結果が出ています。
ただしこの点の解釈には注意が必要で、「きちんと使える人=もともと生活習慣が良い人」という偏りは否定できず、これだけで結論を出すことはできません。
4. 理由② 「重症」の中身が人によって全く違った
より本質的だと私が考えているのが、「そもそも誰を治療すべきだったのか」という問題です。

睡眠時無呼吸の重症度は、通常AHI(1時間あたりに10秒以上呼吸が止まる・浅くなる回数)で判定します。しかしこの指標は「何回止まったか」しか見ておらず、「1回でどれだけ深く酸素が下がったか」をまったく反映しません。どれだけ酸素濃度が低下し、それによって交感神経が強く乱れたかが、心臓の負担を考える場合には重要です。
AHIを指標に、回数だけをみて重症度を評価した場合、同じ「重症」と診断されても、酸素が2%しか下がらない方と、15%も下がる方が同じ箱に入れられてしまうのです。
この疑問を払拭するために行われたのが、2026年に発表された解析です。RICCADSA・ISAACC・SAVEという3つの試験、合計3,549名のデータをまとめ、次の2つのものさしで「高リスクの睡眠時無呼吸」を定義し直しました。

- 低酸素負荷 無呼吸のたびに、血液中の酸素がどれだけ深く・長く下がるか(87.1 %min/h超)
- 心拍の反応 無呼吸のあとに、脈がどれだけ跳ね上がるか(9.4 bpm超)
その結果、この基準で「高リスク」に分類された方では、CPAPによる心血管イベントが31%有意に抑制されたことが示されました(交互作用ハザード比0.69、95%信頼区間0.50–0.95、P=0.024)。
一方、高リスクでない方では効果は見られませんでした。つまり従来の試験は、効果が出る方と出ない方を一緒に登録してしまい、両者が互いを打ち消し合って「差なし」になっていた可能性があるのです。
ただし、重症な睡眠時無呼吸症候群がある場合、CPAP療法だけを行っていれば大丈夫と言う訳ではありません。
5. 理由③ CPAPだけではダメ
そしてもう一つ、循環器内科医として私がいちばん重要だと考えている点があります。
CPAPは、狭くなった気道を空気の圧力で押し広げる治療です。無呼吸そのものは確かに取り除きます。しかし、その無呼吸を生み出している「内臓脂肪」「インスリン抵抗性」「慢性的な炎症」には、あまりアプローチできていません。
もちろん、CPAPを行うことによって交感神経の過剰な興奮がある程度緩和されます。交感神経の過剰な興奮は血糖値スパイクを起こしやすくするため、血糖値スパイクが緩和されることによって太りにくい体質になります。
SAVE試験の参加者は、実に95.6%が内臓脂肪型の肥満でした。その後の追加解析では、ウエスト÷身長の比が高い方ほど再発リスクが高いことが示されています(最も高いグループで約1.5倍)。ウエストの大きさは内臓脂肪の量と相関することが報告されています。内臓脂肪は体の中の炎症を引き起こします。この炎症が心臓や血管を痛めつける要因になります。
つまり、いくらCPAP療法をしていたとしても、内臓脂肪を減量させるアプローチを行わないと心血管イベントの再発率が高いままとなります。
6. 私の考え
ここまで読んで、「じゃあCPAPはやめてもいいのか」と思われた方がいるかもしれません。答えは、はっきりと「いいえ」です。
CPAPには、日中の眠気の改善、睡眠の質と気分の改善、未治療の高血圧に対する降圧効果、そして居眠り運転事故の予防という、確かな効果が証明されています。
また、途中にも述べた通り、真に重症な睡眠時無呼吸症候群の方には、心血管イベントの再発予防効果が得られます。
私のこれまでの経験でも、CPAP治療を行うことによって、コントロールに難渋していた血圧管理ができるようになってきた症例が多数存在します。
一方、重度の無呼吸があるにも関わらず、途中でCPAP療法を自己中断し、後に脳卒中を発症し入院を余儀なくされた方も経験しています。
| ⚠ CPAPを自己判断で中止しないでください
「効果がなかった」という研究結果は、「CPAPが不要」という意味ではありません。 中止を検討される場合は、必ず主治医にご相談ください。 |
私がお伝えしたいのは、結果の解釈の仕方と役割分担です。
CPAPは「症状と血圧の治療、重症例での心血管イベントの再発予防」。そして心筋梗塞や脳梗塞を防ぐ本丸は、体重(特に内臓脂肪)・血圧・血糖・脂質の最適化にあります。具体的には、次の5つです。
- 内臓脂肪を減らす食事 糖質の質と量を見直し、たんぱく質をしっかり確保する
- 運動 週150分以上の有酸素運動に加え、筋力トレーニングを組み合わせる
- 血圧・血糖・脂質の見える化 年1回の健診だけでなく、家庭血圧の記録を習慣にする
今はスマホと連携して24時間連続で血糖値をモニターできる機器も存在します
- 栄養素の充足 ビタミンD、マグネシウム、亜鉛、オメガ3脂肪酸など、糖代謝や炎症に関わる栄養素の不足を補う
- 睡眠時間そのものの確保 治療をしていても、7〜9時間の睡眠がなければ土台が崩れます
「機械をつけているから大丈夫」ではなく、「機械で症状を抑えつつ、体そのものを整える」。これが現時点のエビデンスに最も適切な考え方だと、私は思います。
まにわクリニックでは、循環器内科の専門的な評価と、栄養・代謝の視点を組み合わせて、患者様お一人おひとりのリスクを整理しています。
- 睡眠時無呼吸の検査 ご自宅でできる簡易検査からご案内し、CPAPの導入・継続もサポートしています
- 血管・心臓の評価 血液検査、血管年齢検査、心臓・頸動脈の超音波検査で、動脈硬化の進み具合を確認します
- 代謝の評価 血糖・インスリン・脂質・炎症の指標から、「上流」の乱れを見つけます
- 栄養状態の評価 ビタミンDやミネラルの過不足を評価し、食事内容と合わせて改善策をご提案します
- 栄養サポート 簡単な血液検査でも、結構色々な栄養状態を評価することができます。
当院では基準値のみで評価するのではなく、より深く内容を解析することで、患者様の栄養状態を評価し、医師や管理栄養士による食事・栄養指導、必要に応じてサプリメントの案内などを行っています。
| こんな方は、一度ご相談ください
・いびきを指摘される、日中の眠気が強い ・血圧のコントロールが悪い ・CPAPを使っているが、これで十分なのか不安 ・健診でお腹まわり、血圧、血糖、コレステロールを指摘された ・心筋梗塞や脳梗塞を経験し、再発を防ぎたい |
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
引用文献
1) McEvoy RD, et al. CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea. N Engl J Med. 2016;375(10):919-931.
2) Azarbarzin A, et al. Cardiovascular benefit of continuous positive airway pressure according to high-risk obstructive sleep apnoea: a multi-trial analysis. Eur Heart J. 2026;47(17):2077-2089.
3) Effect of CPAP therapy on blood pressure in patients with obstructive sleep apnoea: a worldwide individual patient data meta-analysis. Eur Respir J. 2025;65(1).
4) Central Obesity and Recurrent Cardiovascular Events in Patients With OSA: The SAVE Study. Neurology. 2026;107(3):e218334.
5) Sleep Apnea and Stroke: A Narrative Review. Chest. 2024;166(4):857-866.