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2023.07.31
院長ブログ
医者がなりたくない病気、糖尿病!
糖尿病・・・。医者である僕が最もなりたくない病気です。それは糖尿病の恐さをよく知っているからです。
難しいのは、しっかりと検査をしないと異常がわからないということです。
今回は糖尿病とはどうな病気?どんなことが問題になるのか?などを解説します。
1. 糖尿病とは
糖尿病とは、血糖を下げるホルモンであるインスリンが十分にでない、もしくは十分に働かないために、血液中を流れるブドウ糖(グルコース)が増えてしまう病気です。
通常は空腹時血糖値(検査当日の朝食を取らずに測定した血糖値)が110mg/dl未満、75gのブドウ糖負荷試験で140mg/dl未満が正常と判断されます。この基準からずれてくると、血糖の調節に障害がある(耐糖能異常)と判断されます。
2. 血糖をコントロールするインスリン
血液の中の糖(血糖)は身体のさまざまな臓器、細胞にとってとても重要なエネルギー源となります。なので食事をしたときも、食べていない時も常にある一定の血糖値を維持する必要があります。
私たちが食事をすると、腸管で糖質は分解され、ブドウ糖(グルコース)として体内に吸収されます。一方食事をとっていない時は、肝臓や筋肉、脂肪組織から栄養分を取り出し、血糖を維持しています。
血糖を上昇させるホルモンとしては成長ホルモン、副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン)、副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン)、甲状腺ホルモン、グルカゴン、ソマトスタチンなど、実にたくさんのホルモンが関与しています。古代から飢餓状態でも活動できるよう、人類は血糖を維持できるシステムを複数構築してきたのです。
一方、血糖を低下させるホルモンは膵臓から分泌されるインスリンのみです。血液を漂っている糖は、インスリンの力を借りて細胞の中に糖を取り込み、その結果血液中の糖の濃度が一定範囲におさまっています。
血糖を上昇させるホルモン
・成長ホルモン
・副腎皮質ホルモン(コルチゾール、アルドステロン)
・副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン)
・甲状腺ホルモン
・グルカゴン
・ソマトスタチン
血糖を低下させるホルモン
・インスリン
糖尿病では、血糖を上昇させるホルモンと、低下させるホルモンであるインスリンのバランスが崩れたり、インスリンの効きが悪くなった結果、血糖値が上昇した状態と言えます。
3. インスリンの働きが悪くなる2つの要因
糖尿病では、インスリンが十分に働かず、血糖をうまく細胞に取り込めなくなります。その結果、血液中の糖があふれかえってしまい、高血糖になります。
なぜ、このようなことが起こるのでしょうか?
そもそも血糖は、インスリンの働きによって GLUT4と呼ばれるタンパク質(血糖が細胞の中に入るためのドア)が細胞の表面に移動し、細胞内に取り込まれていきます。2つの要因とは、ドアを開けるための鍵となる「インスリンの分泌低下」、ドアの建て付けが悪く、インスリンがあっても開けられない「インスリン抵抗性」の2つの要因があります。
Richter EA, et al. Physiol Rev 2012;93:993-1017より作図
1. インスリン分泌低下
インスリンの分泌量が不足し、その結果、細胞にある血糖の入り口のドアが開けられず、糖が細胞内に入れない状態。
2. インスリン抵抗性
インスリンは十分に分泌されているが、細胞にある血糖の入り口の建て付けが悪く、細胞内に糖が入れない状態。
4. 糖尿病の症状とは?
高血糖の代表的な症状としては
➢ 喉が渇く、水をよく飲む
➢ 尿の回数が増える
➢ 体重減少
➢ 疲れやすい
➢ 意識障害(高度に血糖が上昇した場合)
などがあります。ただし、症状がなく知らない間に糖尿病になっている方も多くいます。
5. 糖尿病にはどのような種類があるの?
糖尿病には、その成り立ちによっていくつかの分類がなされており、大きく分けると「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他の特定の機序、疾患によるもの」「妊娠糖尿病」があります。
1. 1型糖尿病
膵臓からインスリンがほとんどでなくなる(インスリン分泌低下)ために、血糖値が高くなります。治療には注射でインスリンを補う必要があります。
2. 2型糖尿病
インスリンが必要な分だけ出にくくなったり(インスリン分泌低下)、インスリンの効きが悪くなったり(インスリン抵抗性)することで、血糖値が高くなる状態です。
2型糖尿病になる原因は、遺伝的な影響もありますが、食生活、運動習慣、睡眠、ストレスなどの生活習慣の影響も大きいと言われています。
3. その他の特定の機序、疾患によるもの
糖尿病以外の病気や治療薬の影響で血糖が上昇し、糖尿病を発症することがあります。遺伝子異常や、膵外分泌疾患、内分泌疾患、薬剤や化学物質によるもの、肝疾患、感染症、免疫機序による稀な病態などが挙げられます。
4. 妊娠糖尿病
妊娠中に初めて判明した、まだ糖尿病には至っていない状態のことをいいます。
妊娠中は絶えず赤ちゃんに栄養を与えなければならないため、空腹時には血糖値が下がりやすくなっています。一方、胎盤から出るホルモンの影響で、インスリンが効きにくくなり、食後の血糖値は上昇しやすくなります。
多くの場合、出産後高血糖は改善しますが、妊娠糖尿病を経験した妊婦の場合、将来糖尿病にかかりやすいことが報告されています。また、生まれてくる子供も糖尿病になりやすいことが言われています。(妊娠中の弊害については「子供の健康は妊娠前から始まっている」や「エピジェネティクスとは」のブログをご覧ください)
6. 糖尿病の診断基準とは
糖尿病と診断する際には、血液検査による血糖値を基準にして判断しています。
主な項目としては①早朝空腹時血糖値(検査当日の朝食を取らず、空腹の状態で採血をした値)、②随時血糖値(特に時間を決めずに食後に採血して得られた値)、③75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)2時間値(75gのブドウ糖を摂取し、一定の時間が経過するごとに採取された値のうち、2時間後の値)、④HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)があります。その値をもとに、正常型、糖尿型、正常型と糖尿病型のどちらにも当てはまらない境界型の3段階に分類されます。
糖尿型が2回確認できた場合や①〜③のいずれかと④の値が基準を満たせば、初めて糖尿病と診断されます。
7. 糖尿病に合併する疾患とは
糖尿病に合併する疾患には、大きく分けて「細い毛細血管が傷ついて起こる病気」と「太い血管が傷ついて起こる病気」に分けられます。
➢ 細い毛細血管が傷ついて起こる病気には、手足の感覚を司る神経が障害されて痺れや感覚が鈍くなる「糖尿病性神経障害」、腎臓の働きが悪くなる「糖尿病性腎症」、目の中の網膜の血管が傷ついて視力が起こる「糖尿病性網膜症」があり、これらを糖尿病3大合併症といいます。
神経障害は、神経細胞に栄養を送る毛細血管が障害されるために生じてきます。
腎臓は血管の中に溜まった老廃物と必要な栄養成分を分ける濾紙のような作用をする臓器であり、非常に多くの細かな血管から構成されています。血管が障害されることで、濾過できる面積が減ってしまい、腎障害を起こしていきます。現在の日本人における透析導入の原因疾患第1位です。
目の中にある網膜も細かな血管が生えており、これが障害されることで出血を起こし、最悪失明の原因となります。
➢ 太い血管が傷ついて起こる病気には、脳卒中や狭心症、心筋梗塞などが挙げられます。また、糖尿病のコントロールが悪い場合、糖尿病性心筋症と呼ばれる病気を発症し、心不全に至る方もいます。
このような血管の病気以外にも、肺炎、歯周病、皮膚炎なども発症しやすくなり、逆にこのような感染症を起こすことでさらに糖尿病が悪くなることが報告されています。
また、最近の報告では、ガンやアルツハイマー型認知症にもなりやすいことがわかってきています。
8. 正常型なら大丈夫なのか?
空腹時の採血やブドウ糖の負荷試験で正常範囲なら、糖尿病とは診断されませんが、それはつまり「正常」なのでしょうか?
残念ながら、病気の診断には限界があります。
正常な方の場合、空腹時、食後、食後2時間以降を含め、血糖値は70〜140mg/dlの範囲を超えることがないと報告されています(2011 Guidelines for Management of Postmeal Glucose in Diabetes., Raghavan VA, et al. New York Humana Press 2008:97-114.)。一見正常と思われる人の中には、食直後や食後30分後の血糖値が140mg/dlを超える方がおり、その場合でも2時間後の血糖値が140mg/dlを超えていなければ、境界型の条件も満たされず、「正常型」と判断されてしまいます。
最近の報告では、随時血糖値やHbA1cの値よりも、血糖の乱高下の方が糖尿病の合併症をきたしやすいことが示されています(Monnier L, et al. Diabetes Care 2003;26:881-5.)。
そしてこのようなケースでは、細かく血糖をチェックしなければ異常を検知することができません。
大事なことは、診断基準を満たしていないから大丈夫と思わないことです。近年の食生活の欧米化に伴い、食後高血糖を認める方は大変増えてきていると思います。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
箕面船場にあるまにわクリニックでは栄養指導を含め対応しています。
血糖のことが心配、実際に血糖が高いけど治療していないなどあれば一度ご相談ください。