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2026.07.07

院長ブログ

糖尿病薬「メトホルミン」の新たなメカニズム? ― 答えは「腸」だった!?

みなさま、こんにちは

大阪府北摂地域箕面船場にある、まにわクリニックの馬庭です

 

糖尿病治療薬として日本でも多く服用されている「メトホルミン」と呼ばれる薬があります。

中にはアンチエイジング目的で使用されている方も多いのではないでしょうか。

 

世界でも2億人以上で使用され、安くて、長く使われていて、最近では「老化を遅らせるかもしれない薬」としても注目されています。

 

ところが2026年、その効きめのしくみについて、長年の常識をひっくり返すような研究がアメリカ・ノースウェスタン大学から報告されました(Nature Metabolism volume 8, 1262–1263 (2026))。

今回はこの話を内科・循環器内科の立場から解説していきます。

これまでの常識:「肝臓を抑える薬」

私たちの体は、食事をしていないとき、血糖値が下がらないよう一定にキープするために、肝臓が糖をせっせと作って血液に流しています。これは「糖新生」と呼ばれています。

糖尿病では絶えず血糖値が高めに上昇しているため、この糖新生を押さえ込む「メトホルミン」と呼ばれる薬が長らく使用されてきました(今でも多くの方に使われています)。

 

長らくメトホルミンは「肝臓が糖を作りすぎるのを抑える薬」と説明されてきました。教科書にもそう書かれていて、長年これが定説でした。

新発見:本当の主役は「腸」だった

ところが、薬がどこに届いているかを丁寧に調べると、おかしなことが分かってきます。

元々予想されていたメカニズムは、肝臓に運ばれたメトホルミンが、エネルギーの「発電所」であるミトコンドリアの一部の機能(ミトコンドリア複合体I)を阻害することによって「糖新生」を抑え込み、糖を血液に放出させないことで血糖値を下げると考えられていました。

しかし、メトホルミンは肝臓よりも、腸の壁にうんと高い濃度でたまっていることが、これまでの研究で報告されています。飲み込んだ薬は腸の細胞にどんどん取り込まれる一方で、そこから血液へ出ていく「出口」が少ないため、腸の中に渋滞のようにたまります。その濃さは血液中の最大300倍にもなります。

 

今回の研究は、マウスの遺伝子を操作して「腸だけ薬が効かない」状態を作る、という巧妙な方法で因果関係を確かめました。

すると腸で効かなくすると、血糖を下げる力がぐっと弱まったのです。

つまり、効きめの主な舞台は肝臓ではなく腸だった、というわけです。

腸が「糖を吸い込むスポンジ」になる

ではメトホルミンは腸で何をしているのでしょう。

 

カギは、細胞の中の「発電所」であるミトコンドリアです。先にも述べた通り、メトホルミンは腸の細胞でこの発電所の一部(複合体Iという部品)にブレーキをかけます。発電所の効率が落ちた細胞は、エネルギー不足になり、その埋め合わせに血液中の糖をどんどん取り込んで、別の方法で急いでエネルギーに変えようとします。

 

その結果、腸はまるで糖を吸い込むスポンジ(専門的には「グルコースシンク」)のようにふるまい、食後に上がった血糖を片づけてくれる、というイメージです。

 

これまでは肝臓に影響を及ぼしていたと思われていた血糖値を下げる効果が、実は腸で糖を消費していたことがメインであることが分かったのです。

だから、いろいろなことに説明がつく

このしくみが分かると、これまで知られていたメトホルミンの「効果」が、ひとつの理由でつながります。

 

  • 乳酸が増える:メトホルミンを服用すると乳酸が上昇しやすいことが分かっています。ミトコンドリアを介さずに糖を消費すると、「燃えカス」である乳酸が上昇します。だから血中の乳酸が上がるのは、副作用というより腸で効いている証拠そのものでした。
  • 食後の血糖の山が低くなる:腸が食後の糖を吸ってくれるからです。食後の血糖スパイクは、空腹時の血糖よりも心臓や血管の病気と関係が深いと言われており、ここを抑えられるのは大きな意味があります。

逆に、腸内環境が悪化すると血糖値スパイクが起きやすくなることがこれまでも報告されていました。やはり腸は血糖を管理する上でも重要ですね。

  • 体重がわずかに減りやすい:ミトコンドリアがストレスを受けると、腸管細胞はSOSシグナルとして食欲低下やエネルギー代謝に関わる物質(GDF15やLac-Pheなど)を放出します。今回の研究でもこれらの物質が上昇していることが報告されています。

サプリの「ベルベリン」も、実は同じしくみ

おもしろいことに、健康食品として売られている植物成分ベルベリンも、同じ「腸でブレーキ」のしくみで血糖を下げていました。ベルベリンはほとんど体に吸収されず腸に留まる性質があり、それがかえって「腸だけによく効く」結果を生んでいたのです。

当院でも腸内環境改善の一環としてベルベリンを使用することがあります。もちろんベルベリンのみの効果ではないでしょうが、腸内ケアを行うことによって体重が改善する症例を経験しています。

ただし懸念点も存在する:「運動の効きめ」が鈍るかも?

ここからは、とくに運動を大切にしている方に知っておいてほしい話です。

 

メトホルミンを飲むと、血液中のシトルリンという物質が減ることが分かっています。あまり聞きなれない名前ですが、これは体の中で血管を広げる「NO(一酸化窒素)」の材料になる、大事な物質です。NOは運動中に、がんばっている筋肉へ血流をたくさん送り込む役割をしています。

 

このシトルリンも、実は腸で作られています。だからメトホルミンが腸にブレーキをかけると、シトルリンが減り → NOが減り → 運動中の筋肉への血流が十分に増えにくくなる、という連鎖が起こりうるのです。

 

実際に、高齢の方を対象にした研究では、メトホルミンを飲みながら運動すると、運動による体力アップや筋肉の増えかたが、いくらか鈍るという報告があります。

今回の研究は、その原因が「シトルリン不足によるNO低下」かもしれない、という新しい説明を提案しました(ただし、あくまで仮説の段階です)。

 

なので、運動能力をより向上させるためには、シトルリンを併用する方が良いかもしれませんね。

 

もしこれがうまくいけば、「メトホルミンの良いところ(血糖管理や、期待される老化予防の効果)はそのままに、運動の効きめが鈍るという欠点だけを打ち消す」ことができるかもしれません。今後の検証が楽しみなテーマです。

私の考え

この研究の多くはマウスでの結果で、人間に当てはまるかは、これから確かめる段階のものも含まれます。とくに「運動への影響」「シトルリン補充」の話は、現時点では有望な仮説であって、確立した治療法ではありません。

 

そして何より今飲んでいるメトホルミンを、自己判断でやめたり減らしたりしないでください

サプリメント(シトルリンやベルベリンなど)を始めるかどうかも含め、お薬や運動のことは必ず主治医にご相談ください。

また、アンチエンジング目的で自費購入される方もいらっしゃると思いますが、自己判断での開始は危険な場合もあるため、医療機関で相談をおすすめします。

ただ、血糖値を管理する上で、腸が非常に重要であることを示した本研究は大変意義のあるものと考えています。

私自身も、食事、栄養素、腸内ケアを行うことで体重の適正化、肌質の改善などを実感していますし、患者様にも腸内環境の改善を行い、血糖値の改善を得られた方を経験しています。

 

まにわクリニックでは血液検査や尿検査、血管年齢検査や超音波検査などを用いて、患者様の個々のリスクを評価し、リスクに応じて薬物管理、食事運動指導を行っています。

 

血糖値のことが心配、実際に治療を受けているが今の状態で大丈夫か心配、などございましたら一度ご相談ください。

 

院長 馬庭直樹

記事執筆者

まにわクリニック
院長 馬庭直樹(まにわなおき)

  • ・日本内科学会認定内科医
  • ・日本内科学会総合内科専門医
  • ・循環器専門医
  • ・心臓リハビリテーション指導士
  • ・日本心血管インターベンション認定医
  • ・脈管専門医
  • ・下肢静脈瘤に対する血管内治療実施基準による実施医
  • ・弾性ストッキングコンダクター
  • ・日本抗加齢医学会専門医
  • ・点滴療法研究会 高濃度ビタミンC点滴療法認定医
  • ・日本キレーション協会 キレーション認定医
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