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院長ブログ
2026.09.27
院長ブログ
高齢者だから心不全の薬は減らした方が良い?

みなさん、こんにちは。大阪北摂地域、箕面船場にある、まにわクリニック院長の馬庭です。
診察室で、ご家族からこんなご質問を頂くことがあります。
「父はもう85歳です。心不全の薬をこんなにたくさん飲ませて大丈夫でしょうか? 年も年だし、減らしたほうがいいのでは?」
お気持ちはよくわかります。
確かに年齢を重ねると肝臓の機能も低下しますし、薬による副作用もでやすくなります。
また、カラダの不調が増えるとともに、薬の数が増えるのは誰でも嫌なものです。
このほど、この疑問に関係する大きな研究が、英国の循環器専門誌『Heart』に発表されました。
今回は循環器の専門医の立場からこの疑問について解説します。
結論を先にお伝えすると、「年齢だけを理由に心不全の薬を中止、減量するのはよくない。ただし高齢の方ほど“少しずつ・様子を見ながら”が大切」です。
目次
1.心不全の薬は「弱ったポンプを休ませる」薬
2.なぜ高齢の方では薬が控えられがちなのか
3.今回の研究が示した数字
4.この数字をどう受け止めるか
5.私の考え
心不全の薬は「弱ったポンプを休ませる」薬

心不全とは、心臓のポンプの力が落ち、全身に十分な血液を送れなくなった状態です。
単に心不全と言っても、様々なタイプが存在します。
大きな括りでお伝えすると、
① 心臓の縮む力は維持されているが、心臓の筋肉が硬くなって血液を十分に吸い込めず、血の巡りが低下するもの
②心臓の縮む力が低下して、十分に血液を全身に送れないもの
に分けられます。
今回の研究が対象としたのは、その中でもHFrEF(ヘフレフ:心臓が縮む力が落ちているタイプの心不全)です。
心臓は縮む力が低下してくると、サイズを大きくしたり、脈拍を増やして補おうとします。しばらくはそれで事足りるのですが、それが続くとだんだん心臓は疲れてきて空回りしていきます。
なので今の治療の中心は、ポンプを無理に動かすことではなく、ポンプの負担を減らして休ませることにあります。
日本の心不全ガイドラインでも、次の4種類の薬(“基本4剤”と呼ばれます)を組み合わせることが勧められています。
- β(ベータ)遮断薬:心臓の空回りを抑え、ペースを整える
- ACE阻害薬・ARB・ARNI:血管をゆるめ、血圧を下げることで負担を減らす
- MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):心臓を硬くするホルモンの働きを抑える
- SGLT2阻害薬:余分な塩分と水分を尿に出し、心臓と腎臓を守る
いずれも大規模な臨床試験で、寿命を延ばし入院を減らすことが確かめられています。こうしたガイドラインに沿った薬の治療を、専門用語でGDMT(ジーディーエムティー)と呼びます。
なぜ高齢の方では薬が控えられがちなのか

ところが、これらの試験に参加した方の平均年齢は60代前半〜半ばが中心で、75歳以上、80歳以上の方はあまり含まれていませんでした。そのため実際の診療では、「高齢だから副作用が出やすいのでは」「フレイル(加齢で体力や気力が弱った状態)があるから控えよう」と、薬が少なめになりがちです。
実際に私がお薬を処方する場合も、高齢になればなるほど、副作用を警戒しながら慎重に行っています。専門の領域ですし、さじ加減はある程度経験しているのである程度自信を持って処方しますが、専門ではない先生が処方される場合は、より慎重になるのも理解できます。
そのような中、高齢の方だけを対象にした試験もあります。70歳以上の2,128人を対象に、β遮断薬ネビボロール(日本では未承認の薬です)を試したSENIORS試験では、「死亡または心臓・血管の病気による入院」が31.1% 対 35.3%と減りました。平均約21か月で、約24人が治療を受けて1人のイベントを防ぐ計算です。
一方で、死亡だけを見ると169人 対 192人で、統計的にはっきりした差とはいえませんでした。「高齢者でも効きそうだ」という手がかりはあったものの、寿命への効果について、まとまった答えは不足していたのです。
今回の研究が示した数字

そこでご紹介したいのが今回の研究結果です。
シンガポール国立大学のグループからの論文で、65歳以上のHFrEFの方で「GDMTを受けた人」と「受けなかった人」の生存を比べた研究を集め、まとめて解析しました(メタ解析)。対象は1994〜2024年の34研究、合計9万2,916人です。
結果は以下の通りです。
- 死亡リスク:GDMTを受けた人は、受けなかった人より約3割低かった(HR 0.69、95%信頼区間64〜0.74)
- フレイルとの関係:フレイルのある方は、GDMTを受けにくかった(RR 0.63)
- 副作用:β遮断薬を使った方では、脈が遅くなる「徐脈」が約4倍多かった(RR 3.98)
- 血圧低下、急な腎機能の悪化、低血糖は、差がありませんでした
この数字をどう受け止めるか
ここで、「もともと元気な人だから薬を出してもらえて、元気だから長生きしただけでは?」と思われた方もいるでしょう。鋭いご指摘で、これがこの研究の一番の弱点です。
34研究の多くは、くじ引きで治療を割り振る試験ではなく、実際の診療データを振り返る「観察研究」です。研究自体が「フレイルの方は薬を受けにくい」と示している通り、薬を使わなかったグループには、もともと体の弱い方が多く含まれていた可能性があります。研究チームは研究の特徴ごとに分けた解析や、都合のよい結果ばかり集まっていないかの統計的な確認を行っていますが、この偏りを完全には取り除けません。
その一方で、SGLT2阻害薬ダパグリフロジンの大規模試験(DAPA-HF)をフレイルの程度別に分析した研究では、心不全の悪化や心臓病による死亡の減り方は、弱っている方ほど恩恵が大きい可能性があります。
私の考え

日本の心不全は、まさに「高齢者の病気」です。全国128病院で心不全により入院した1万3,238人を調べた日本の登録研究(JROADHF)では、平均年齢は78.0歳、75歳を超える方が68.9%を占めていました。今回の研究の対象は、日本の日常診療そのものです。
当院でも、心不全で通院される方の多くはご高齢です。80代の方でも、少ない量から薬を整えていくことで、息切れやむくみが落ち着き、元気に通院を続けておられる方がいらっしゃいます。
私の考えとしては、年齢だけを理由に一律に薬を処方しない、減らすことはしません。ただし、年齢はもちろんですが、その方の心臓以外の状態、体力、栄養状態、人生観を総合的に判断して対応しています。
処方する場合は少ない量から始め、脈・血圧・腎臓の数値を見ながら少しずつ調整します。目標の量に届かなくても、その方が無理なく続けられる量を「その方にとっての最適量」と考えています。
また、全ての人にとって、ガイドライン通りが最善策でないことも理解しています。予後がよくなっても生活の質が低下しては意味がありません。バランスが重要であると考えています。患者様の背景も含めて総合的に判断する。AIが発達している今の時代において、ここが人にしかできない領域であると考えています。
今日からできること
1.自分の心不全が「縮む力が落ちているタイプ」かどうか、主治医に聞いてみる
2.お薬手帳を見て、基本4剤のうちどれを飲んでいるか確認する
3.家庭で血圧と脈拍を測り、記録を受診時に見せる
4.毎朝体重を測る(数日で2kg以上増えたら早めに相談)
5.食事がとれない日、ふらつく日は、自己判断せず早めに相談する
【ご注意】脈が遅い、血圧が低いと感じても、自己判断で薬をやめないでください。
心不全の薬、とくにβ遮断薬は、急にやめると心不全が悪化することがあります。気になる症状があれば、必ず主治医にご相談ください。
人は千差万別です。同じ85歳でも、体力も生活も大きく違います。大切なのは「何歳だから」ではなく、「あなたにとって何が必要か」を、一緒に考えていくことだと考えています。
まにわクリニックでは、心不全の診療・薬の見直しのご相談を承っています。
心エコーや血液検査などでお体の状態を把握し、その上でどのような治療が必要かを説明させていただいております。他院で処方されている薬についても、お薬手帳をお持ちいただければご相談に応じさせていただきます。
息切れ、むくみ、疲れやすさが気になる方、ご家族の薬が心配な方は、お気軽にご相談ください。
参考文献
①Tan E, Meei-Wah C, Teo YH, et al. Survival benefit of guideline-directed medical therapy in older patients with heart failure: a systematic review and meta-analysis. Heart. 2026;112(20):1114-1124. doi:10.1136/heartjnl-2025-326305
②Flather MD, Shibata MC, Coats AJS, et al. Randomized trial to determine the effect of nebivolol on mortality and cardiovascular hospital admission in elderly patients with heart failure. Eur Heart J. 2005;26(3):215-225.(SENIORS)
③Butt JH, Dewan P, Merkely B, et al. Efficacy and safety of dapagliflozin according to frailty in heart failure with reduced ejection fraction: a post hoc analysis of the DAPA-HF trial. Ann Intern Med. 2022;175(6):820-830.(DAPA-HF)
④Ide T, Kaku H, Matsushima S, et al. Clinical characteristics and outcomes of hospitalized patients with heart failure from the large-scale Japanese Registry Of Acute Decompensated Heart Failure. Circ J. 2021;85(9):1438-1450.(JROADHF)
⑤Tsutsui H, Ide T, Ito H, et al. JCS/JHFS 2021 Guideline Focused Update on Diagnosis and Treatment of Acute and Chronic Heart Failure. J Card Fail. 2021;27(12):1404-1444.