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院長ブログ
2026.10.08
院長ブログ
その睡眠薬、心臓に負担をかけていませんか?

みなさん、こんにちは。大阪北摂地域、箕面船場にある、まにわクリニック院長の馬庭です。
診察室で「眠れないので、睡眠薬をずっと飲んでいるんですけど、体に悪くないですか?」というご質問をよく頂きます。
眠れないこと自体が身体に負担をかけますし、不眠症のある方は、心臓疾患のリスクを高めることも報告されています。
では、眠れれば、どの眠剤でも安全に使用できるのでしょうか?
この疑問に答えるべく、睡眠薬の一種である「ベンゾジアゼピン系」の薬と心不全の関係を調べた研究のまとめが発表されました。
今回はこの研究を、循環器専門医の立場からわかりやすく解説します。
結論を先にお伝えすると、「この睡眠薬を使っている人は心不全が多い」という関連は見られましたが、「薬が心不全を起こす」とまでは言えず、自己判断でやめるのは危険です。
目次
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睡眠薬と心臓、何が関係するの?
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「眠れない」は心臓のサインかもしれない
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今回の研究が示した数字
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「薬のせい」と言い切れない理由
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私の考え
1. 睡眠薬と心臓、何が関係するの?

ベンゾジアゼピン系の薬は、脳の「興奮を静める仕組み」を強めて眠りやすくする薬です。日本では昔から広く使われ、睡眠薬だけでなく不安を和らげる薬としても処方されています。
代表例はエチゾラムやクロチアゼパムなどです。
イメージとしては、脳全体に「ブレーキ」をかける薬です。よく効く一方で、ブレーキは眠りに関係する部分だけでなく、呼吸や筋肉にもかかります。
一方、眠剤には非ベンゾジアゼピン系の薬剤も存在します。
そのうちの1つがZ薬とも呼ばれる薬剤です。頭文字に「Z」がつくものが多いことからそのようにネーミングされています。ゾピクロン、ゾルピデム、エスゾピクロンなどです。
ベンゾジアゼピン骨格を持たないので「非ベンゾジアゼピン系」と呼ばれますが、作用するのは、ベンゾジアゼピン系薬と同じγ-アミノ酪酸A型受容体(GABA-A受容体)のベンゾジアゼピン結合部位です。違いはと言うと、作用の程度です。Z薬は筋弛緩作用や抗不安作用が弱いとされ、半減期も短めです。一方で、呼吸抑制、転倒、せん妄、依存のリスクは共通して残ります。
それ以外の眠剤としては近年処方頻度が増えてきているオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサント、ダリドレキサント)とメラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)です。これらは、GABA-A受容体を介さない別の系統の睡眠薬です。
この新しいタイプのお薬の特徴は、上記で述べていたような、呼吸抑制、転倒、せん妄、依存のリスクが少ないことです。
ですので、高齢者でも比較的安全に使用できるとされ、処方頻度が増えてきています。
眠剤(特にベンゾジアゼピン系)が心臓への影響として考えているのは、主に次の3つです(いずれも仮説です)。
- 呼吸が浅くなる:のどの筋肉もゆるむため、いびきや睡眠時無呼吸が悪化し、夜間に体の酸素が下がりやすくなります。酸素不足は心臓にとって大きな負担です。
- 転倒やふらつき:夜中のトイレで転んで骨折し、入院をきっかけに心臓の状態が悪くなることがあります。
- 日中の活動量が減る:昼間も眠気が残ると、歩く量が減ったり、体重測定や塩分の管理がおろそかになったりします。
なお、ベンゾジアゼピンそのものが心臓の筋肉そのものを直接傷つけるという強いデータはありません。
2. 「眠れない」は心臓のサインかもしれない

論文の解説の前に・・・
1つ重要な点をお伝えすると、
「眠れない」こと自体が、心不全の症状である場合があるという点です。
心不全とは、心臓のポンプの働きが落ちて、体に水分がたまりやすくなる状態です。横になると肺に水がたまって息苦しくなる、夜中に何度もトイレに起きる、といった症状が出ます。ご本人は「最近眠れない」と感じて受診し、睡眠薬が処方される……ということが実際に起こりえます。心不全の患者さんの約半数が不眠を訴えるとも言われています。
また、不眠そのものも心不全と関連します。ノルウェーで約5万4千人を平均11.3年追った研究では、「寝つけない」「夜中に目が覚める」「ぐっすり眠った感じがしない」の3つすべてがある人は、ない人に比べて心不全の発症が約4.5倍(HR 4.53)でした[4]。
つまり、睡眠薬・不眠・心不全は原因でもあり結果でもあるのです。この点を頭に置いて、次の研究結果を見ていきましょう。
3. 今回の研究が示した数字

今回の研究は、台湾の研究グループが世界の論文を集めて解析した「メタ解析」です[1]。11件の研究(追跡期間は180日〜15年)をまとめたところ、ベンゾジアゼピン系の眠剤を使っている人は使っていない人と比べて、
- 心不全の新たな発症:約1.4倍(HR 1.41、95%信頼区間16–1.72)
- 心不全による入院:約1.3倍(HR 1.29、95%信頼区間01–1.65)
という関連が見られました。ほかの睡眠薬(Z薬やオレキシン受容体拮抗薬)などと比べても、入院・再入院が多い傾向が示されています。
また、報告によっては、Z薬もオレキシン受容体拮抗薬と比べると、ベンゾジアゼピン系と同程度に心不全のリスクを悪化させることが報告されています。
日本の研究では、心不全で入院した高齢者約1,900人の調査では、オレキシン受容体拮抗薬と比べて、ベンゾジアゼピン系眠剤(リスクが2.77倍、HR 2.77)もZ薬(リスクが2.98倍、HR 2.98)も再入院が多い結果でした[3]。
4. 「薬のせい」と言い切れない理由

ここで、「もともと体調の悪い人が睡眠薬を飲んでいるだけでは?」と思われた方、鋭いです。まさにそれが、この研究の最大の弱点です。
今回まとめられた研究の多くは、「薬を飲んだ人と飲まなかった人を後から比べる」観察研究です。くじ引きで薬を割り振った試験ではありません。そのため、
- 不安・うつ・体の衰え(フレイル)がある人ほど睡眠薬が出やすく、これらは心不全の危険因子でもある
- まだ診断されていない心不全の症状(夜間の息苦しさ・頻尿)が「不眠」として扱われ、薬が出た後に心不全と診断される
といった偏りを、完全には取り除けません。実際、日本の研究でもベンゾジアゼピンを使っていた人は、もともと高齢で、うつ病や栄養状態の低下が多い傾向がありました[2]。
さらに、ほぼ同じ時期に発表された別のメタ解析では、心不全との関連は統計的にはっきりしませんでした(OR 1.27、95%信頼区間 0.81–1.98)[5]。著者自身も「因果関係ではなく関連」と結論づけています。
ここで注意点をお伝えします。睡眠薬を自己判断で急にやめないでください。
ベンゾジアゼピン系やZ薬を急にやめると、強い不眠や不安、ふるえなどの離脱症状が出ることがあります。見直す場合は、必ず主治医と相談しながら、数週〜数か月かけて少しずつ減らします。
5. 私の考え

日本は国際的にもベンゾジアゼピンやZ薬の処方が多い国と言われ、高齢の方が長く飲み続けているケースも少なくありません。また国の調査では、日本人のおよそ5人に1人が「睡眠で休養が十分とれていない」と感じています。睡眠の悩みは、決して他人事ではありません。
当院でも「眠れない」とのご相談を詳しく伺うと、夜間の息苦しさやむくみ、いびきが隠れていることがあります。
ですので、不眠のご相談には、まず心臓と呼吸のチェックから始めるようにしています。
実際に検査をしてみると、重度の睡眠時無呼吸が発見されることもよく経験しています。
睡眠薬はその次の選択肢です。そして睡眠薬を選択する場合、できるだけベンゾジアゼピンやZ薬を最初に使用するのではなく、オレキシン受容体拮抗薬などの薬剤から選択するようにしています。
今日からできること
- 睡眠薬は自己判断でやめない(見直しは主治医と)
- 夜中の息苦しさ、トイレの回数、足のむくみ、体重の急な増加をメモする
- 家族に「いびき」「呼吸が止まっていないか」を聞いてみる
- 朝は日光を浴び、午後のカフェインと寝床でのスマホやテレビを控える
- 利尿薬を飲んでいる方は、飲む時間を主治医に相談する
- 睡眠薬を長く飲んでいる方は、次の受診で「今の薬で良いか」を確認する
人の体は千差万別です。誰かが飲んでいる薬が、あなたに合うとは限りません。大切なのは、あなたの眠れない原因が何なのかを知ることです。
まにわクリニックでは「眠れない」の裏に、心臓や呼吸の問題が隠れていないかを調べます。
<保険診療>(症状や状態に応じて保険適用)
- 血液検査(BNP/NT-proBNP:心臓の負担を示す数値)
- 心電図・心臓超音波(エコー)検査
- 自宅でできる簡易睡眠検査(睡眠時無呼吸の評価)
- 現在お飲みの睡眠薬の見直しのご相談
<自費診療>
- 栄養療法外来・サプリメント外来:睡眠や心身の調子に関わる栄養素(マグネシウム・鉄・ビタミンDなど)が不足していないかを、血液検査やミネラル測定で「まず測って」確認し、必要な方にサプリメントをご提案します。
- 点滴療法:検査で不足が見られた方や、食事やサプリだけでは補いにくい方に、マグネシウムなどを含む栄養点滴をご提案します。
※サプリや点滴は、睡眠薬や心臓の治療の代わりになるものではありません。あくまで体の土台を整える補助としてご活用ください。
質の良いサプリを選ぶ4つのポイント ①必要な量がきちんと入っている ②不要な添加物が除かれている ③吸収を高める工夫がある ④第三者機関の品質チェックを受けている
睡眠薬を飲み続けていて心配な方、最近眠れなくなった方は、お気軽にご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
- Huang YS, Prawesti GN, Chiang YC, Chen YC, Chen HY. Effects of Benzodiazepines on Heart Failure Outcomes and Adverse Events: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cardiovasc Toxicol. 2026;26(10). doi:10.1007/s12012-026-10206-8
- Sato Y, Yoshihisa A, Hotsuki Y, et al. Associations of Benzodiazepine With Adverse Prognosis in Heart Failure Patients With Insomnia. J Am Heart Assoc. 2020;9(7):e013982.
- Saito T, Nojiri S, Naito R, Kasai T. Rehospitalisation risk by hypnotics class in older patients with heart failure: a cohort study utilizing administrative claims data in Japan. Open Heart. 2024;11(2):e002889.
- Laugsand LE, Strand LB, Platou C, Vatten LJ, Janszky I. Insomnia and the risk of incident heart failure: a population study. Eur Heart J. 2014;35(21):1382-1393.(HUNT研究)
- Chen, et al. Benzodiazepines or related drugs and risk of cardiovascular diseases: a meta-analysis of cohort studies. Sleep Breath. 2026.(巻号頁:要確認)