Blog Detail
院長ブログ
2026.11.02
院長ブログ
糖尿病・心不全の薬で、不整脈も減る!?

みなさん、こんにちは。大阪北摂地域、箕面船場にある、まにわクリニック院長の馬庭です。
ところで、SGLT2阻害薬(エスジーエルティー・ツー阻害薬)と呼ばれる薬剤を聞いたことはありますか?
元々は糖尿病の薬で、尿の中に糖を排出させ、血糖値を下げる効果があります。
臨床研究の過程で、心不全や腎機能障害の軽減効果が確認されたため、糖尿病はないけれども、心不全や腎機能障害を有する方にも服用が認められている薬剤です。
また、体重減少効果も認めるため、自費診療にはなりますが、減量目的で使用される方もいらっしゃいます。
最近、海外の不整脈専門誌に、この薬剤は不整脈にも効果があるのかといった疑問を正面から扱った総説(これまでの研究をまとめて整理した論文)が掲載されました。
今回は循環器専門医の立場から、その内容を、元になった試験の数字とあわせてご紹介します。
目次
1. SGLT2阻害薬が心臓のリズムに働くしくみ
2. どのような不整脈が対象?
3. 研究が示した数字
4. 誰にとって意味があるのか
5. 私の考え
1. SGLT2阻害薬が心臓のリズムに働くしくみ

SGLT2阻害薬は、腎臓で糖と塩分を尿に「捨てる」ことで血糖を下げる薬です。先にも述べた通り、今では糖尿病だけでなく、心不全や慢性腎臓病の治療薬としても使われています。
総説では、心臓のリズムが整う理由として大きく三つが挙げられています。
一つ目は自律神経のバランスです。自律神経は、車でいえばアクセル(交感神経)とブレーキ(副交感神経)にあたります。心臓が弱っている方や糖尿病の方では、アクセルを踏みっぱなしの状態になりがちです。このアクセルを踏みっぱなしが続くことにより、心不全の発症や悪化を来します。SGLT2阻害薬はこのアクセルを緩めると考えられています。一般的に、利尿剤などによって体内に溜まった水分を減らすと、交感神経が活性化され、脈拍数は上昇しますが、この薬で尿から水分が抜けても脈が速くならないことは、その傍証のひとつです。
二つ目は心筋細胞の中の塩分(ナトリウム)の処理です。細胞の中にナトリウムが溜まると、満員電車のように細胞内がぎゅうぎゅうになり、電気の流れが乱れやすくなります。この電気の乱れが、不整脈の要因となります。動物や細胞の実験では、この「混雑」を和らげる作用が報告されています。
三つ目はエネルギー源の切り替えです。体がケトン体という燃料を使いやすくなり、ハイブリッド車が効率のよい燃料に切り替えるように、心臓の負担が減ると考えられています。
そして総説が新たに注目したマイクロRNA(遺伝子の働きを調節する小さな物質)の調節です。
このマイクロRNAを調節することによって、心臓の線維化(体の組織や臓器が傷ついたり慢性的な炎症を起こしたりした際に、正常な細胞や組織が線維組織(コラーゲンなどのタンパク質)に置き換わって硬くなる現象)、老化、心肥大などの変化が緩和される可能性が考えられています。しかしこの話は、主に動物や細胞の実験から得られた仮説です。人間で原因と結果の関係まで証明されたわけではありません。
2. どのような不整脈が対象?

ここで取り上げる不整脈は主に二つです。
心房細動は、心臓の上の部屋(心房)が小刻みに震える不整脈です。心不全や弁膜症、脳梗塞の大きな原因になります。
心室性不整脈は、心臓の下の部屋(心室)から起こる危険な不整脈で、突然死につながることがあります。
3. 研究が示した数字

心房細動について。 2型糖尿病の方 1万7,160人を対象にしたDECLARE-TIMI 58試験では、ダパグリフロジンと呼ばれるSGLT2阻害薬を飲んだグループで心房細動・心房粗動の報告が約19%少なくなりました(264件 対 325件、HR 0.81)。
ただし、発生頻度でみると1000人あたり年間 7.8件 対 9.6件です。差は年間 1.8件なので、約560人が1年間飲み続けて、ようやく1件を防ぐ計算になります。
突然死を含む重い不整脈について。 心臓の収縮力が弱った心不全の方 4,744人を対象にしたDAPA-HF試験の事後解析では、重い心室性不整脈・心停止・突然死をまとめた件数が、ダパグリフロジン群で21%少なくなりました( 140人(5.9%)、偽薬群で 175人(7.4%)でした(HR 0.79))。約1年半の追跡期間で、約67人が服用して1人を防ぐ計算です。もっとも、統計的にはぎりぎり意味のある差でした。
日本の試験もあります。 植込み型除細動器(危険な不整脈を電気ショックで止める機械)を入れた2型糖尿病の方 150人を対象にしたEMPA-ICD試験です。エンパグリフロジンと呼ばれるSGLT2阻害薬を24週間服用すると、機械が記録した心室性不整脈の回数が偽薬より減りました。一方で、実際に電気ショックが作動した回数は 0.06回 対 0.27回で、はっきりした差はありませんでした。
4. 誰にとって意味があるのか

データが比較的しっかりしているのは、糖尿病で心臓病のリスクが高い方と、心臓の収縮力が弱った心不全の方です。どちらも、もともとSGLT2阻害薬が勧められる方々です。
自律神経については、日本で行われたEMBODY試験があります。心筋梗塞を起こした糖尿病の方 96人を解析した試験で、エンパグリフロジン群の中では自律神経の指標の一部が改善しました。
また、EMPA-ICD試験の追加解析では、効果が男性で大きく、女性ではっきりしなかったと報告されています。性別によって効き方が違う可能性があるものの、人数が少なく、今後の確認が必要です。
「心不全が良くなった結果、不整脈も減った」のか、「薬が直接リズムを整えた」のかは、まだ区別できていません。
【ご注意】SGLT2阻害薬を服用中の方は、「不整脈予防の効果は限定的」と聞いても、
自己判断で中止しないでください。
この薬の本来の役割は、心不全・腎臓病・糖尿病の治療です。
不整脈への効果は、その上に乗る「おまけ」と考えてください。
5. 私の考え

日本の調査では、心房細動の方は年齢とともに増え、80歳以上では男性の約4%、女性の約2%にみられます(坂本・井上,日本臨床 2013)。高齢化が進む日本では、決して他人事ではありません。
当院でも、健康診断の心電図や、血圧測定の際の脈の乱れから、初めて心房細動が見つかる方がいらっしゃいます。症状がほとんどない方も少なくありません。
私自身、心不全や糖尿病の患者さんにSGLT2阻害薬をお出しする際は、「不整脈が減るかもしれない」ことをメリットの一つとして処方しています。ただし、それだけを理由に処方することはありません。大事なのは順番です。まず心房細動があるかどうかを確かめ、あれば脳梗塞の予防を優先します。
今日からできることをまとめます。
・自分の脈を測る習慣をつける:手首で1分間、リズムが一定かどうかを確かめましょう。家庭血圧計の「不規則脈波」表示も手がかりになります。
ここに太字と黄色のアンダー線を入れたいテキストを入力
・健診の心電図を受けっぱなしにしない:「要経過観察」と書かれていたら、一度ご相談ください。
・SGLT2阻害薬を飲んでいる方は、続けることが大切:脱水や体調不良時の対応(シックデイ)は、主治医と確認しておきましょう。
・血圧・体重・飲酒・睡眠時無呼吸を見直す:これらは心房細動の代表的な危険因子です。
人は千差万別です。同じ薬でも、意味の大きさは人によって違います。大切なのは、ほかの誰かではなく、あなたに何が必要かです。
今、症状がなくても、放置することによって将来的な心不全、脳卒中などの大きなトラブルを引き起こす可能性が高まります。一度大きなトラブルを起こしてしまうと、内服する薬剤数も一気に増えますし、生活の質も低下してしまいます。
まにわクリニックでは、心臓の専門医として、超音波、心電図、レントゲン、血液検査、生活習慣などの評価を行い、心不全や不整脈のリスクを管理し、なるべく大きなトラブルへと繋がらないよう予防治療に努めています。
気になることがあれば、遠慮なくご相談ください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考文献
1. Ashok V, Lim VG, Rahim SMZ, et al. Cardiac Electrophysiological Impact of Sodium Glucose Cotransporter 2 Inhibitors: A Comprehensive Review. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2026;e015246. doi:10.1161/CIRCEP.126.015246(巻号:要確認)
2. Zelniker TA, Bonaca MP, Furtado RHM, et al. Effect of Dapagliflozin on Atrial Fibrillation in Patients With Type 2 Diabetes Mellitus. Circulation. 2020;141(15):1227-1234.(DECLARE-TIMI 58)
3. Curtain JP, Docherty KF, Jhund PS, et al. Effect of dapagliflozin on ventricular arrhythmias, resuscitated cardiac arrest, or sudden death in DAPA-HF. Eur Heart J. 2021;42(36):3727-3738.(DAPA-HF)
4. Fujiki S, Iijima K, Nakagawa Y, et al. Effect of empagliflozin on ventricular arrhythmias in patients with type 2 diabetes treated with an implantable cardioverter-defibrillator. Cardiovasc Diabetol. 2024;23(1):224.(EMPA-ICD)
5. Shimizu W, Kubota Y, Hoshika Y, et al. Effects of empagliflozin versus placebo on cardiac sympathetic activity in acute myocardial infarction patients with type 2 diabetes mellitus. Cardiovasc Diabetol. 2020;19(1):148.(EMBODY)